人間関係に疲れている。
誰かと話すことで満たされる人がいる。人と会い、同じ時間を過ごすことで元気を取り戻す人もいる。
でも、私は違う。
人と関わるほど、少しずつ自分の中から何かが減っていく。相手の言葉や感情がいつまでも頭に残り、ひとりになったときにようやく自分の時間へ戻れる。
世間の喧騒にも、他人の感情が絶えず入り込んでくる毎日にも、もううんざりしている。
できることなら、人間関係そのものを絶ちたい。
私は、むしろSNSが好きだ。
だから私が断ちたいのは、人とのつながりすべてではない。SNS以外の人間関係だ。人の言葉に触れながら、自分の距離を守れる。疲れたら画面を閉じて、誰にも邪魔されない静かな世界へ戻れる。
私はこのまま、人間関係をできるだけ持たず、ひとりで生きていけるのだろうか。
この問いを、答えを出すためではなく、問いを深めるために議論する七つの人格「The Seven」に持ち込んだ。
今夜、この問いを囲む七人。
陸:数字と事実で考える
琴音:美しさと感性で考える
理人:定義と構造で考える
迅:常識を疑い、本質を突く
遥:未来の可能性から考える
結:人の気持ちを言葉にする
玄一:長い時間軸から考える
七人が席についた。
八つ目の席は、この記事を読んでいるあなたのために空いている。
討論
夜の会議室。円卓の中央で、スマートフォンの画面が一度だけ光った。誰も手を伸ばさないまま、通知は暗闇へ消えた。
理人「最初に、問いを固定しよう。ミサはSNSを仕方なく残すわけではない。むしろSNSが好きだ。そのうえで、SNS以外の人間関係を断ち、ひとりで生きていけるのか。今夜話すのは、これだけだ」
迅「なら、生きていけるんじゃない? 人は直接会って、声を聞いて、同じ場所で笑わなければ満たされない。そっちを標準にする理由がない。文字だけの距離が合う人もいる」
陸「生活が成り立つかという意味なら、完全に人との接触をなくすのは難しい。仕事、買い物、病院、行政手続き。自分が誰とも会わなくても、生活の向こう側では他人が動いている」
迅が椅子の背にもたれた。
迅「それは人間関係じゃなくて、生活インフラの話だろ。電気を作っている人まで数え始めたら、無人島以外は全部アウトになる」
理人「その指摘は正しい。『人間関係』という一つの言葉に、別のものが混ざっている」
理人は手元の紙に、三つの円を描いた。
理人「生活に必要な接点。友人や知人との個人的な関係。そしてSNSで交わす言葉。最初の接点はゼロにしにくい。二つ目は減らせる。三つ目は、ミサが残したいものだ」
結「SNSだけでも、心が満たされることはあると思う。声や表情がないからこそ、言葉だけをゆっくり受け取れる。会う約束も、帰るタイミングを探る必要もない。人と話すことで元気になる人がいるように、距離を保てることで落ち着く人もいる」
迅「しかも、疲れたら閉じられる。その主導権があるから好きなんだろ」
結は少し考えてから、中央のスマートフォンを見た。
結「ただ、閉じる自由は相手にもある」
迅「会っている人間だって、ある日いなくなる」
結「そう。だからSNSが薄いと言いたいわけじゃない。閉じられる関係も、一方だけが好きなときに開けるサービスではない、ということ。こちらが閉じている間に、相手の時間も進んでいる。再び開いたとき、同じ場所にいてくれるとは限らない」
迅の指が、テーブルを一度だけ叩いた。
迅「それでも、嫌な関係を維持する理由にはならない。いつか必要になるかもしれないから人をつないでおけ、なんて、人間を非常用バッテリーみたいに扱うほうがおかしい」
陸「維持しろとは言っていない。ただ、SNSだけに絞るなら、その生活がどこで壊れやすいかは知っておいたほうがいい。アカウントが消える。サービスが終わる。病気で文字を打てなくなる。緊急時に連絡できる相手がいない。一本の経路だけで成り立つ仕組みは、効率的だが脆い」
遥「これから先、ひとりで暮らすための技術やサービスはもっと増える。会わずに働き、診察を受け、必要なものを受け取る生活は、今より簡単になると思う。でも、技術が人との接触を減らしても、人生の不確実さまでは消せない」
迅「一人で生きたいと言うたびに、病気になったら、年を取ったら、災害が起きたら、と未来の不安を並べられる。それでは、いつまでたっても一人を選べない」
陸「選んでいい。俺が言っているのは、選択には費用があるということだ」
琴音「人と関わり続けることにも、費用はあるわ」
陸が琴音を見る。
琴音「返事を考える時間。機嫌を読む時間。会いたくない日に笑う時間。静かな場所にまで入り込んでくる声。ひとりで生きる危うさばかり数えるのに、人と生きることで失うものは、なぜか数えられない」
数秒の沈黙が落ちた。
陸「それも、数えるべきだ」
円卓の中央に置かれたスマートフォンは、もう光らない。
玄一「わしが気になるのは、一つだけだ。『今、ひとりでいたい』ことと、『これから先の自分にも、誰も選ばせない』ことは同じではない」
迅「扉を開けておけ、って?」
玄一「閉じて構わん。ただ、溶接までする必要はないと言っている」
理人「すると、問いは二つに分かれる。SNSだけを人との窓口にして、静かに暮らすことはできるのか。そして、戻る可能性まで消してしまう必要があるのか。この二つは、同じ問いではない」
結「もしかするとミサが確かめたいのは、永遠にひとりでいられるかではなく、今、人間関係から降りてもいいのか、ということなのかもしれない」
迅はすぐには答えなかった。
やがて、暗くなったスマートフォンを見たまま言った。
迅「それを許すのは、誰なんだ?」
再び通知が届き、円卓の上に白い光が広がった。
今度も、誰も画面を開かなかった。
ミサ
七人の討論が終わっても、私の気持ちは大きく変わらなかった。私はSNSが好きだし、できることなら、それ以外の人間関係からは離れていたい。
人の言葉には触れられる。でも、声色やその場の空気まで引き受けなくていい。自分のタイミングで開き、疲れたら閉じられる。その距離が、私にはちょうどいい。
それを「本当は寂しいから」と説明されたくはない。
ひとりの静かな世界を、本当に好きな人もいる。
ただ、玄一の「扉は閉じても、溶接までしなくていい」という言葉だけは、今も残っている。
扉を開けておくために、誰かと無理につながり続けるつもりはない。でも、今閉じたい扉を一生開けないと、今日ここで誓う必要もないのかもしれない。
今は、静かな世界へ戻る。
その先を決めるのは、今の私ではなく、そのときの私でいい。
あなたへの問い
もしSNSだけでも人の言葉に触れられるなら、あなたはそれ以外の人間関係を、どこまで手放せますか。
すべて手放したい。
何か一つは残したい。
SNSだけでは足りない。
どの答えでも構いません。
The Sevenの討論は、ここで終わりではありません。
コメント欄は、読者が八人目として参加する「第二会議室」です。答えでなくても、違和感や迷い、あなた自身の体験を置いてください。もちろん感想だけでも嬉しいです。そこから新しい問いが生まれたとき、討論はもう一度動き始めます。
次の問いを募集します
The Sevenは、次の問いを待っています。
次回、The Sevenに討論してほしい問いがあれば、メッセージまたはDMで教えてください。匿名希望と添えていただければ、記事ではお名前や個人が特定できる情報を出しません。
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次に七人が囲むのは、あなたの問いかもしれません。





今までの人生の中で今が一番充実しています。
このsubstackに出会えたことが、自分の人生観を変えていきました。
この出会いがあったからこそ、自分の夢を再び追いかけることができました。
問いに関しては、今、自分の夢を再び追いかけるきっかけになったsubstackを大切にしたいとと思っています。
興味深く読ませていただきました✨️
自分に置きかえて思いを巡らせてみると、SNSもリアルもどちらも必要で、と同時にどちらからも離れたいと感じる時もあります。
私の場合ですが、若い頃は物事をアリかナシか?の二択で考えていた時期もありました。ナシ!と判定している部分について、"過去から未来にわたって永遠に遠ざける"というイメージを持っていたように思います。
自分を振り返る機会になる素晴らしい記事でした。
ありがとうございました。